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東京地方裁判所 昭和43年(行ウ)1号 判決 1969年12月25日

東京都江東区大島八丁目四二番一一号

原告

岩崎留次郎

右訴訟代理人弁護士

江尻平八郎

高橋潔

柳本孝正

東京都江東区深川猿江町二丁目八番六号

被告

江東東税務署長

大久保弘

右指定代理人

青木康

須藤哲郎

藤沢保太郎

田島好司

小沢邦重

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者双方の申立て

(原告)

一、主位的請求

被告が原告に対し昭和四一年一二月一三日付でした原告の昭和四〇年分贈与税および同上無申告加算税の賦課決定を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

二、予備的請求

被告が原告に対し昭和四一年一二月一三日付でした原告の昭和四〇年分贈与税の賦課決定のうち金九二万九、五〇三円を超える部分および同上無申告加算税のうち金九万二、九〇〇円を超える部分を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

(被告)

原告の請求はいずれもこれを棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第二、原告の請求の原因および被告の主張に対する反論

(請求の原因)

一、被告は、原告に対し昭和四一年一二月一三日付をもつて原告の昭和四〇年分贈与税として四〇七万六、五一〇円、その無申告加算税として四〇万七、六〇〇円の賦課決定をした。

しかし、原告は、昭和四〇年中において何人よりも贈与を受けた事実はなく、原告が昭和四〇年六月一七日石井東太郎から買い入れた宅地(東京都江東区大島九丁目七三一番一他四筆)合計四、二七四平方メートル(一、二九三坪)の代金八五〇万円も、適正な時価であるから、みなし贈与としての課税の対象とされるものではない。仮りに、右買入代金が多少低額であつたとしても、相続税法七条にいう「著しく低い価額」とは、時価の二分の一に満たない価額を指すものと解すべきであるが右宅地の時価は、一、一六三万二、二三〇円であるから、その買入代金が同法条にいう著しく低い価額に該当しないこと明らかであるので、この点からしても、みなし贈与としての課税の対象とはならない。

以上のように、本件賦課処分は、不動産の時価の評価を誤まり、また、相続税法の解釈を誤つたものであるので、その取消しを求める。

二、仮りに、前記買入代金が相続税法七条にいう著しく低い価額に該当するとしても、当該宅地の時価とその買入代金との差は、二七三万二、二三〇円であるから、これから算出すると、原告の負担すべき贈与税は、九二万九、五〇三円、加算税は、九万二、九〇〇円が正当である。したがつて、これを超える部分は、違法であるから、その取消しを求める。

(被告の主張に対する反論)

「相続税財産評価基準」は、法令に基づかない東京国税局長の下級官庁に対する職務上の訓令にすぎないものであるから、これによつたことをもつて右宅地の時価が被告主張のとおりであることの論拠とすることは、許されない。

また、原告が被告主張の書面に署名捺印したのは、単に右買入代金が八五〇万円であることを承認したにとどまり、著しい低廉譲渡の事実まで認めたものではない。

第三、被告の答弁ならびに主張

(答弁)

一、原告主張の原因事実中、宅地の時価が一、一六三万二、二三〇円であることは否認、その余の事実は認める。

(被告の主張)

被告は、原告が石井東太郎から買い入れた宅地の時価を、東京国税局長が国税庁長官通達に従つて定めた「相続税財産評価基準」によつて、一応、一、七四四万四、一九〇円と評価し、相続税法七条の規定に基づき、右時価を買入代金との差額に相当する金額を、原告において右石井から贈与により取得したものとみなし、本件賦課処分を行なつたのであるが、いま、その評価の根拠を示すと、更地価額は、正面路線価三・三平方メートル当り六万三、〇〇〇円、これに奥行価格逓減率〇・八五を乗じ、さらに、これから不整形地であるための調整率二〇%、間口に比して奥行が長大であるための補正率一〇%を各控除した残額四、九八五万二、九〇八円(三・三平方メートル当り三万八、五五六円)であるが、右宅地は、石井東太郎において増沢合板工業株式会社に賃貸していたので、借地権割合六五%を控除した一、七四四万八、五一七円が原告の買い入れた右土地の時価となる。したがつて、これを該金額の範囲内である一、七四四万四、一九〇円と認めて行なつた本件賦課処分は、正当であるというべきである。なお、右の評価の適正であることは、石井東太郎が所得税法五九条二項、同法施行令一七〇条の規定に従い、当該譲渡所得の金額の計算について時価に相当する金額による譲渡があつたものとみなされないために、右宅地の売渡代金が時価の二分の一に満たないこと等当該譲渡に関する明細を記載した書面を所轄市川税務署長に提出しているが、原告は、右書面にその記載事項の正当であることを確認して署名押印していることからみても明らかである。

第四、証拠関係

(原告)

甲第一号証、第二号証の一ないし六、第三号証、第四号証の一ないし三、第五号証、第六号証の一ないし四を提出し、鑑定人石川市太郎の鑑定(第一、二回)および原告本人尋問の各結果を援用し、乙第一号証の一、二の成立を認め、その余の第二号証の一ないし四の成立は不知。

(被告)

乙第一号証の一、二、第二号証の一ないし四を提出し、鑑定人石川市太郎の鑑定の結果(第二回)を援用し、甲第六第証の一ないし四の成立は不知、その余の甲号各証の成立を認める。

理由

原告が昭和四〇年六月一七日石井東太郎より宅地四、二七四平方メートルを代金八五〇万円で買い入れたこと、被告がこれについてみなし贈与があつたものと認めて本件賦課処分をしたことは、いずれも当事者間に争いがない。

原告は、相続税法七条にいう「著しく低い価額」とは時価の二分の一に満たない金額を指すものと解すべきである旨主張し、そのことを前提として本件賦課処分の違法をいうが、所詮、独自の見解に基づくものであつて、採用の限りでない。

ところで、成立に争いのない乙第一号証の一、二および官公署の作成に係ることにより真正に成立したものと認める乙第二号証の一ないし四によれば、原告が前記のごとく石井東太郎から買い入れた右宅地の当時の時価は、少なくとも一、七四四万四、一九〇円を下らないものと認めるのが相当であり、これと牴触する鑑定人石川市太郎鑑定の結果(第一回)は、前掲各証拠と対比してたやすく措信しがたく、他に右認定を左右するに足る的確な証拠はない。したがつて、原告が石井東太郎から右宅地を代金八五〇万円で買い入れたことは、相続税法七条にいう「著しく低い価額」の対価で財産の譲渡を受けた場合に該当するものというべきであるから、被告が同条の規定に基づいてした本件賦課処分には原告主張の違法はない。

よつて、原告の請求は、理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行訴法七条、民事訴訟法八九条を適用し、主文のとおり判決する。

なお、原告は、請求の趣旨として、主位的請求と予備的請求の申立てをしているが、そこにいう予備的申立ては、主位的請求の容れられないことを前提とする別異の請求ではなく、主位的請求が処分の全部取消しを求めるに対し、当該処分の一部取消しを求めるにすぎないものであるから、主位的請求の趣旨に当然含まれるものと解するのが相当である。それ故、主文において、敢えて、予備的請求を棄却する旨を掲記しないこととした。

(裁判長裁判官 渡部吉隆 裁判官 渡辺昭 裁判官 斎藤清実)

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